とき
エイプリルフールも佳境に入った、四月一日、昼下がり。
ソメイヨシノも満開の頃合い。
青い空がどこまでも続くような晴天。
少し風が強い。
同行者は現れて早々、「帽子が飛ぶ」と一言、小さなリュックサックに押し込む。
ヒートテックを中に仕込み、トレンチコートまで羽織ったのは間違いだった。
かなり暑い。
行程
近鉄奈良駅の辺りから新大宮駅の辺りまで、佐保川沿い、約2kmの道のりを往復する。
ここは歩きやすいように整備がなされていながら、せせらぎと自然を身近に感じることができる、絶好の散歩コースだ。
川の両岸には桜並木。
薄紅色のアーチが通行人を包み込む。
植えられている桜は種類豊富で、長い期間に渡って来る人の目を楽しませてくれる。
左岸から右岸へ架けられている橋は、シャッタースポットとして人気だ。
我々も皆につられて足を止める。
蛇行する川の流れは桜の大きな腕に遮られて、その先を見通すことができない。
そんな様子が、この先見るであろう景色を想像させ、心を掻き立てる。
一瞬の青春
川辺に降りることのできる場所もある。
今年はさらに一箇所増えていた。
飛び石は子供達の憩いの場として親しまれている。
ふと見ると、制服姿のうら若き恋人達。
透明な正方形のシートの上に腰を下ろしていた。
笑い声と共に、忙しなく交わされる口づけ。
まるで側には誰もいないかのように。
あのシートは魔法の絨毯なのかもしれない。
二人だけの世界がそこにはあった。
高校時代の恩師が、「ゼノンの矢の如し」と形容していたのを思い出す。
桜の花の命のように短い青春だが、あの二人にとってその一瞬は止まっていたに違いない。
そんな瞬間を垣間見た。
せせらぎを感じて
土手は急な階段を降りるものが多いが、長いスロープも用意されている。
川辺から桜並木を見上げるのもまた壮大な眺めだ。
同行者は童心に返ったらしい。
ヒールを脱ぎ、川の水に足を浸す。
かと思うと、薄いブルーのジーンズの裾をたくし上げて、飛び石を飛んでいる。
濡らすわけにはいかない書類を抱えていた自分は、離れたところからその様子を眺めている。
浅い水深。
透明な流れ。
それに乗った花びらの小舟は、下流へと進んでいく。
せせらぎの音が心地良い。
折り返し地点。
黒い鵜のような鳥が見える。
首を伸ばして水に潜っている。
突然、顔を出し、水に湿った黒い翼を煌めかせて、青い空を駆け巡る。
見上げると一筋の雲。
龍のような姿をしている。
「一条の龍を追え」とおっしゃったのも、高校時代の恩師であった。
青春にしろ、我が命にしろ、桜のように儚いものだ。
そんな僅かな時を燃やして、1つの大きな夢に向かいたい。
終わりに
古来から日本人に愛されてきた桜。
桜を見て、あなたは何を感じるだろうか。
それでは、素敵な青い1日を。